鑑賞済みの方は、ネタバレありの解説記事もご覧ください。
『セトウツミ』はどんな映画?
大阪のとある河原、階段に並んで腰掛ける男子高校生が二人。放課後のなんでもない時間、二人はただただ、特に意味のない会話を重ねながら時間を過ごしていきます。その会話はいかにも大阪らしく軽妙で、端から見れば漫才のように笑えるものなのですが、あくまで日常会話は日常会話でしかなく、ひたすらどこにも行き着きません。
それだけ、の映画です。会話劇でしかない会話劇。しかしそれが、いかにも大阪らしいユーモアに満ち満ちていながら、同時に確かに高校生らしい日常的な親密さに溢れています。10代男子のバカな会話の「面白エッセンス」を凝縮した部分を覗き見しているような感覚になります。なんでもない感じですが、なんでもない・かつ・結構すごいですよ。
監督は『まほろ駅前多田便利軒』(2011)『さよなら渓谷』(2013)などの大森立嗣。主演の二人に、『愛の渦』(2014)『紙の月』(2014)などの池松壮亮、『共喰い』(2013)『そこのみにて光輝く』(2014)などの菅田将暉。他に『ライチ☆光クラブ』(2016)などの中条あやみ。原作は此元和津也による漫画作品『セトウツミ』。
『セトウツミ』あらすじ
大阪の中心地からは少し離れた、どちらかというと住宅地という地域。湾岸にもほど近いだろう、運河のようにも見える川っぺりの、ちょっとした広場のような整備されたスペース。その短い階段の部分に、二人の男子高校生が腰かけている。なんでもない放課後の時間、二人はただだらだらと会話を繰り返す。
とりとめのない会話なのに、しかし大阪人の会話らしく笑える要素がふんだんに、かつ、ごく自然に散りばめられていき、それはまるで漫才のような様相を呈し始める。どちらかというと、サッカー部をやめてしまって時間を持て余している能天気なおバカの瀬戸(菅田将暉)のほうがボケ。塾に行くまでの時間を潰している、クールなインテリ風の内海(池松壮亮)のほうがツッコミ。
季節は流れていくが、二人の会話はどこへも行きつかないし、ほとんど何も起こらない。瀬戸の憧れるクラスの女の子・樫村さん(中条あやみ)だとか、瀬戸の家族関連で一応ちょっとした出来事は起こるのだが、それらはすべて二人のとりとめのない会話に回収されていく。そのようにして、彼らの青春の一コマがただただ流れていく。
鑑賞前のポイント
なにひとつ、心の準備だとか覚悟をする必要なく鑑賞できる映画です。その点、同じ大森立嗣監督の死ぬほど重苦しい傑作『さよなら渓谷』などとは正反対です。また原作漫画についてですが、どちらに先に触れてもよいでしょう。「ネタバレ」みたいなことは起こりようがありません。
「ユルいのに鋭い」独特の現代関西的お笑いの感覚が合う人にとっては、この映画は肩の力を抜いて楽しめるものでしょう。逆に、その感じが合わない方は肩透かしを食らうかもしれません。二人の日常会話的漫才の様子が予告編動画などでもちょっとだけ示されていますから、鑑賞前に試してみるといいかもしれません。
その性質上、全編に渡って関西弁(特に大阪弁)が展開されます。菅田将暉が大阪出身なのに対して池松壮亮は福岡出身。しかし、専門家の方言指導もついたとのことで、よくあるような「違和感ある大阪弁」にはなっていないと感じます。私はルーツの半分が関西かつ関西に数年住んだことがあるだけの東京人なのですが、少なくともその感覚においては問題ありませんでした。ネイティブ大阪人の方からするとダメ出しはあるのかもしれませんが。
なお、中条あやみは大阪出身、ネイティブ大阪弁を披露しています。彼女が大阪弁を喋る映像ってけっこうレアなのではないでしょうか。実にかわいいですね。素晴らしいことですね。
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