SR サイタマノラッパー(2009)あらすじと作品紹介(ネタバレなし)




鑑賞済みの方は、ネタバレありの解説記事もご覧ください。

『SR サイタマノラッパー』はどんな映画?

埼玉県・福谷市。片田舎に住む3人の若者は、ヒップホップ・ユニットを組んで音楽活動をしている。……ということに自分たちではしているが、実際のところミュージシャンと呼ぶには程遠い。まともにライブもできず、曲は誰にも聴かれず、まともな職にも就けず、くすぶっている状態だ。彼らの青春はどこに転がっていくのか?

田舎の若者と閉塞感、夢と現実といった「アオクサ」テーマの王道的キーワードが、ヒップホップのリズムに乗って展開される、親密でありながら新しい青春映画です。そして、ニューヨークの『ワイルド・スタイル』(1983)でもなく、デトロイトの『8 Mile』(2002)でもなく、(架空の都市)トーキョーの『TOKYO TRIBE』(2014)でもなく、埼玉だからこそ・日本語ラップだからこそのヒップホップ映画です。

監督は『日々ロック』(2015)『太陽』(2016)などの入江悠。主演に『愛の渦』(2014)などで強烈な印象を残す駒木根隆介。彼の親友に『怒り』(2016)などで存在感を高めている水澤紳吾。他に奥野瑛太、みひろら。続編に『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(2010)、『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(2012)。


『SR サイタマノラッパー』あらすじ

埼玉の「福谷市」のヒップホップ・ユニット「SHO-GUNG」(ショーグン)のメンバー、IKKU(駒木根隆介)、TOM(水澤紳吾)、MIGHTY(奥野瑛太)の3人。一応ラッパーらしい見た目をして、日常生活でも韻を踏みつつ会話をしたりはしているものの、小さな規模のライブすら夢のまた夢で、ミュージシャンには程遠い。IKKUは家庭のお荷物のニートで、妹にも馬鹿にされる。TOMはおっぱいパブの店員。MIGHTYは実家が大きなブロッコリー農家のためのうのうと暮らしている。とにかく、鳴かず飛ばず以前の段階だ。

そんな中、IKKUらの高校の同級生の木暮千夏(みひろ)が姿を現す。卒業後上京した彼女は東京でAV女優になり、それが地元で噂になっていたのだが、今は福谷に戻って書店員になっていたのだ。IKKUがラップをやっていると知ると、大笑いでバカにする千夏。実はIKKUは彼女に心惹かれているのだが、全く相手にされない。

千夏の帰郷が些細なきっかけを呼び、次第にIKKUたちの状況が変化し始める。仲間たちは去っていき、IKKUはいよいよ自分の夢と現実の間で追い詰められていく。彼はヒップホップを、SHO-GUNGを諦めてしまうのか、それとも?


鑑賞前のポイント

なによりも、「ヒップホップ」という要素によってこの映画を敬遠してしまうのはもったいない、ということを強調したいです。私も率直なところ、べつにヒップホップが嫌いというわけではないのですが、音楽性というよりもその(特に日本語の場合の)文化がよくわからない、という人です。「韻というよりダジャレじゃないの、それ」とか「なんでわざわざ無理にでも『Disる』の?」とか。正直に言ってしまえば、わりとバカにしているところがあります。

でも、この映画は楽しめました。感動さえしました。それは、この映画が私の「ヒップホップよくわからん」という気持ちを汲んでくれているからではありません。かといって、「ヒップホップの素晴らしさ」を丹念に描いてくれるからでもありません。「ヒップホップはよくわからないけれど、IKKUが夢を追う気持ちが伝わったから」です。ずいぶん紋切り型の表現ですが。


明らかに低予算で撮られたことがよくわかる映画です。でもそのぶん、じっくりと作られている作品です。ヒップホップだとかラップというだけで敬遠してしまう方にこそ、ぜひ。 

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