鑑賞済みの方は、ネタバレありの解説記事もご覧ください。
『何者』はどんな映画?
就職活動中の大学生の男女5人は、情報交換などを通じて共同戦線を張ることにします。表面上は励まし合い、支え合いながら苛酷な就活に立ち向かっているように見えます。でもその背後には、羨望や嫉妬、コンプレックス、様々な本音が渦巻いていました。ある日仲間の中から「内定者」が出ます。すると、抑えつけられていた本音が少しずつ表面化してきます。
『桐島、部活やめるってよ』などの朝井リョウによる原作『何者』の映画化。現代の大学生たちが抱える葛藤をリアルに切り取った物語です。Twitterというツールをフル活用して、登場人物たちの本音と建前がよく整理され、組み立てられていきます。当然、ドロドロするのは必至。心の奥に隠しておいた痛いところをまさぐってくるところのある映画です。世代によって、学生時代の体験によって、人それぞれに感じるところは異なってくるでしょう。
監督は『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(2010)『愛の渦』(2014)などの三浦大輔。主演に『るろうに剣心』(2012)シリーズ、『リアル〜完全なる首長竜の日〜』(2013)などの佐藤健。ヒロインに『映画 ビリギャル』(2015)『アイアムアヒーロー』(2016)などの有村架純。他に『私の男』(2014)『SCOOP!』(2016)などの二階堂ふみ、『共喰い』(2013)『ディストラクション・ベイビーズ』(2016)などの菅田将暉、『ホノカアボーイ』(2009)『ストレイヤーズ・クロニクル』(2015)などの岡田将生、『電車男』(2005)『凶悪』(2013)などの山田孝之。
『何者』あらすじ
大学生になって以来演劇サークルで脚本を書き続けてきた拓人(佐藤健)はその活動に区切りをつけ、就職活動を本格化させる。バンド活動に打ち込んできたルームシェア相手の友人・光太郎(菅田将暉)も同様だ。入学時から仲の良かった瑞月(有村架純)は米国留学から帰ってきて、やはり就職活動を開始する。留学時に瑞月が知り合った理香(二階堂ふみ)、その恋人の隆良(岡田将生)も加わり、就職活動中という共通の事情を持つ5人の人間関係が始まる。
拓人はいつも一歩引いたところから皆を眺め、なにかと賢しげに分析してみせる。光太郎は社交的で陽気なキャラクター。瑞月はどちらかといえば控えめな聞き役で、やわらかな雰囲気の持ち主だ。瑞月はいかにも留学帰りという感じの、意識高い系女子。隆良は4人の話には加わらず、小難しげな本を読み、就職活動はしないと宣言する。
分析が得意なはずの拓人にはいっこうに内定が出ない。袂を分かった演劇サークル時代の相棒は今も一人で演劇の道を突き進んでおり、その様子も気になって仕方がない。光太郎と瑞月はかつて恋人関係にあったが今は別れていて、ずっと瑞月に思いを寄せている拓人は横目で二人の様子を見ている。理香の意識の高さは空回りし続け、隆良の仮面も剥がれ始める。そんな日々の中、ついに5人の中から内定者が……!
鑑賞前のポイント
まず大前提として必要なのは、Twitterについての知識です。これを読んでくださる方の大多数は、少なくとも大体のところはご存知だろうと思いますが、中には「SNSには手を出さない」という方もいるでしょう。しかし最低限のことを知らなければ、何が起こっているのかすらわからないまま物語が進んでしまいます。
少なくとも「Twitterのアカウントは本名でもハンドルネームでも作れる」「複数作ることができる」「140字以内の『つぶやき(ツイート)』を1単位とした『つぶやき』の集積である」「他のアカウントをフォローすればそのつぶやきが自分のタイムラインに恒常的に流れてくる」「あるアカウントをフォローしていなくても、(そのアカウントがロックされていなければ)誰でもそのつぶやきを見ることができる」といった機能面における知識。加えて「リアルな友達とフォローしあうこともある」「リアルな友達には秘密でツイッターを使うこともある」といった実際の運用上のリアリティも知っておくとよいでしょう。
人が人間関係の建前の裏に隠した自意識、嫉妬、後ろめたさといったものをこれでもかと描いてくる映画です。しかも大学生の話で、つまり存分に青臭いため、だからこそ攻撃力が高くなっています。人によってはグサッと刺され、心が流血沙汰になるかもしれません。ただそれなりの光明も示されていますし、「改めて」気づかされることもあるでしょう。
原作を未読の方は、まず映画を鑑賞してもよいかもしれません。受け手に対する情報の出し方という意味で、映像表現ならではのダイナミックな組み替えがなされており、それが一定程度成功していると感じるからです。その後に小説に触れたとしても、楽しみが奪われるようなことはないでしょう。
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