怒り(2016)あらすじと作品紹介(ネタバレなし)



鑑賞済みの方は、ネタバレありの解説記事もご覧ください。

「怒り」はどんな映画?

1年前、東京の郊外で夫婦が殺害されるという事件が起こった。犯人は未だ逃走中。整形により顔を変えているという。今もテレビ番組などで話題になる大きな事件だ。一方、東京・千葉・沖縄の3か所、それぞれ日常を過ごす人々の暮らしの中に、身元のわからない男たちが現れる。次第に居場所を確保していく彼らだが、周囲の人々の中に疑念が生まれはじめる。「この男は、あの殺人犯ではないのか?」

「悪人(2010)」以来再び、吉田修一の原作を李相日監督とそのチームが映画化。日本映画界を代表する豪華キャストを揃えた大作です。ただし、趣向は「悪人」とはずいぶん異なります。「悪人」では事件の謎解きという要素は希薄で、むしろ事件を取り巻く人々の内面を掘り下げていくヒューマンドラマの側面が強いものでした。一方、「怒り」では明確に「3人のうち誰があの殺人犯なのか(あるいは誰もそうではないのか)」という謎が、終盤まで物語を引っ張っていきます。

サスペンス要素は「悪人」よりも強いながら、同レベルの重みを持ったヒューマンドラマは「怒り」にも描かれます。「悪人」が「事実の先のドラマ」ならば、「怒り」は「事実の手前のドラマ」です。疑う気持ちと信じたい気持ちの相克が、三人の男を取り巻く人々を極限にまで追い込んでいきます。救いのなさも救いもある、心の奥底に深く突き刺さっていく物語です。

「東京の男」は綾野剛。ゲイである彼と恋人になるのが『悪人』(2010)に続いて出演となる妻夫木聡。「千葉の男」は松山ケンイチ。彼を雇う漁協で働く男に渡辺謙。その娘に宮崎あおい。「沖縄の男」は森山未來。彼と関わる地元の若者に広瀬すず、そして本作で大抜擢となった佐久本宝。事件を追う刑事にピエール瀧と三浦貴大。


「怒り」あらすじ

1年前に東京で起こった凄惨な殺人事件。犯行現場には、被害者の血液による大きな「怒」の血文字が残されていた。犯人は整形によって顔を変え逃走中と伝えられる。犯人追跡をテーマにするテレビ番組でも大きく取り上げられ、警察も指名手配を行い力を入れて犯人を追っており、世間の関心も高い。

東京に暮らす藤田優馬(妻夫木聡)は、一流企業に勤める比較的裕福なサラリーマン。末期ガンでホスピスにいる母(原日出子)を頻繁に見舞う一方、ゲイである彼は夜ごと新宿に繰り出して出会いを求めていた。そんな中、前歴不詳の大西直人(綾野剛)と出会い、恋人関係になる。二人は優馬の家で共同生活を始める。

千葉の田舎町。漁協に勤める槙洋平(渡辺謙)は、家出をして歌舞伎町で風俗嬢をしていた娘の愛子(宮崎あおい)を連れ戻してくる。洋平のもとには、愛子が不在だった3か月の間にふらりと現れた前歴不詳の青年・田代哲也(松山ケンイチ)が働いている。愛子と田代は次第に惹かれ合うようになる。

沖縄、本島に近い離島。母とともに沖縄に越してきたばかりの小宮山泉(広瀬すず)は、彼女に惹かれる同級生の素朴な青年・知念辰哉(佐久本宝)に案内され、ボートで近隣の無人島を訪れる。出会ったのは、そこで生活しているらしいバックパッカーのような風体の男・田中信吾(森山未來)だった。

警察が公表した「整形後の人相(予想)図」は、不思議な顔立ちをしている。直人・田代・田中、3人の全てに似ているようにも見えるし、似ていないようにも見える。それぞれの周囲の人々の中に小さな疑念が生まれ、膨らんでいく。いったい誰が犯人なのか。それとも、誰も犯人ではないのか。


鑑賞前のポイント

3人の男を中心とした3つの舞台で話がそれぞれ並行的に進んでいくのだ、という意識をあらかじめ持っておくと、ストーリーを追う上で整理をつけやすいでしょう。3つの物語は直接的に交わることはありません。しかしそれぞれのドラマ性の高まりがしっかりとリンクするようなきわめて緻密な構成がなされており、混乱するようなことはないでしょう。

『悪人』同様、吉田修一の原作小説を先に読むか後に読むか、という問題があります。特に『怒り』の場合は「犯人は?」という明確なネタバレ要素がありますので、難しいところです。筆者は多くの場合「原作を先に読む」ことを好むのですが、映画の出来が非常によいので、順番を逆にしても良いかな、という感じです。


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